"視具連"は、視聴覚教材教具の向上と普及を図り、日本の教育の振興と発展に寄与することを目的に活動しています。

未来の子供たちの為にできること。官民連携の意義
「視て聴いて わたしの提言」(日本視聴覚教育協会「視聴覚教育」6月号より)
日本視聴覚教具連合会理事・教育ICT活用委員会委員長 永谷 幸久
 

 日本視聴覚教具連合会(視具連)は、視聴覚教材教具の向上と普及を図り、我が国教育の振興と発展に寄与することを目的に、視聴覚教材教具の製造・販売に携わる企業を中心として、昭和30年(1955年)に設立された。以来、約半世紀にわたり、各種事業を通じ、我が国の学校教育・社会教育・企業教育等の分野に教育の近代化の基礎を作り、発展普及を支援してきた。

 特に教育の情報化に向け多様化する教育環境においては、視聴覚・メディア教育が深く関連することから、積極的に活動を展開。「教育の近代化展」の開催や視聴覚教材教具の開発・研究に関する協力、関係教育機関・団体と提携した普及促進活動など、多岐にわたる。近年では、教育ICT活用普及促進事業「eスクール ステップアップ・キャンプ」を文部科学省共催にて展開し、昨年は全国ICT教育首長協議会の立ち上げにも協力している。

 こうした立場から、提言などとはおこがましいが、教育の情報化に向けた我々の取り組みの紹介とともに喫緊の課題について少々意見を述べさせていただこうと思う。

◆「eスクール ステップアップ・キャンプ」

 今年の2月、神戸市郊外のイベント会場では、小学校の先生によるICT機器を活用した社会科の模擬授業が実施されていた。授業に参加した先生方はタブレット端末を覗き込みながらお互いに意見を交換し、グループの意見が一覧表示された電子黒板でさらに考えを深めるという授業活動を体験した。これは「eスクール ステップアップ・キャンプ 西日本大会」の中の一コマであるが、同イベントではこの他に、文部科学省による基調講演や各地の実践を紹介するデジタルポスターセッション、有識者によるパネルディスカッション、校内研修リーダー養成のための研修、企業による最新ICT機器の展示など、盛りだくさんの内容で、当日は近畿圏を中心に500名を超える教育関係者が参加した。同イベントは、教育ICT活用普及促進を目的に、文部科学省と共催で、毎年、東日本大会、西日本大会が開催されている。今年で早5年目を迎え、我々視具連の活動の中でも重要なイベントの一つであるが、同時に産官学の連携なくしては成り立たないイベントでもある。我々企業・団体関係者をはじめ、この事業に携わる者は皆、こうした活動が教育の情報化に向け、少しでも後押しとなることを願って、企画・運営に積極的に参画しているのである。

◆教育の情報化加速化プランとICT環境整備指針

 2013年に「世界最先端IT国家創造宣言」が閣議決定された。その中で「教育の情報化」について、2010年代に1人一台の情報端末や普通教室における電子黒板の整備等、教育環境のICT化を実現すべく、年間1,678億円の地方交付税措置による4年間の整備計画が推進されてきた。しかし、残念ながら、地方自治体における整備状況は目標には遠く及ばない状況であり、自治体間の格差も益々広がっている。こうした中、文部科学省は昨年7月、「2020年代に向けた教育の情報化に関する懇談会」における議論をもとに、「教育の情報化加速化プラン」を策定。ICTを効果的に活用した、新たな「学び」やそれを実現していくための「学びの場」を形成し、2020年代に向けた教育の情報化に対応するための方策を示した。

 具体的な取り組み施策の1つに、「2020年代の『次世代の学校・地域』におけるICT活用のビジョン等の提示」がある。この中ではICT環境整備の目標の考え方、情報端末の学校での利用など、具体的な推進内容や結論時期が明記されており、昨年末には「学校におけるICT環境整備の在り方に関する有識者会議」が開催され、ICT環境の整備指針を策定することで、学校におけるICT環境の整備の考え方を国として示そうとしている。この「教育ICT環境整備指針」は、2020年から実施される新学習指導要領の実現には、教育の情報化が必須であることからも、それまでに地方自治体が整備を完了するための「最低限の基準」を定めたものと理解しているが、今後の地方自治体における教育の情報化の整備計画に大きく影響してくることは間違いない。

 その中で、現在我々業界団体が危惧していることの一つが、「電子黒板」という文言が整備コストを理由に「大型提示装置」という言葉に置き換えられるのではないかという事である。「電子黒板」は有識者会議の中でも指摘があったように、画面上で直接PCを操作したり、書き込んだり、保存できるなど、教師による教材提示ばかりでなく、児童生徒がこれらの機能を使って話し合い、意見をまとめたり、分かり易く発表するなど、アクティブラーニングの視点で授業を進めるうえでは欠かせないICT機器である。さらには、単に大きな画像で提示するだけでなく、直接操作して、見せるポイントを示しながら説明できるなど、デジタル教科書との親和性も高く、多くの教師からもその活用が評価されてきた。

 また、現行の「教材整備指針」の例示品名には、電子黒板が示されていることから、普通教室で活用するICT環境の中心的な機器として整備が進んでいる。そのため、ICT環境整備を先進的に進めてきた地方自治体にとっては、例示品名の変更は、本来の効率的な教育利用目的との差異が生じるだけでなく、今後の整備計画に大きな混乱を生じかねない。こうしたことからも、本来の電子黒板の教育利用目的とその効果をあらためて再確認いただき、「教育ICT環境整備指針」においては「電子黒板」の名称を引き続き明示いただくことを強く要望したい。

◆官民連携、産官学連携の意義

 弊会をはじめ、文教事業における団体や企業は、これまでの教材整備指針に基づき、普通教室におけるICT環境整備を積極的に提案、支援してきた。また、教育現場における実践事例収集や、地域における研修会・セミナー、各地方自治体別の実践事例報告会など、教育の情報化の普及・活用を文部科学省と連携し、長年地道に行ってきた。その背景には、我々企業がさまざまな商品やサービスの開発・提供を通して、未来の子供たちの育成に寄与したいという強い思いがあったからこそである。

 実際、教育ICT機器の導入コストは年々下がっており、特に電子黒板においては、従来の整備金額から大幅なコストダウンを各社とも実現している。単なる大型提示装置と比較しても、コスト面では大きな差異がないのが現状だ。さらには、安全面においても、モニター型の電子黒板は強化ガラス等の採用など、教育現場での利用を考慮した設計になっている機種も多く、安心して活用することができる。こうした企業努力による技術・生産革新こそが、官民連携、あるいは産官学連携における成果の一つと言えるのではないだろうか。

 最後に申し添えたいことは、これまでの教育事業における我々の取り組みを振り返った時、教育事業に携わる企業担当者の多くが、未来の子供たちの為に、企業の壁や立場を越えて、本当に真摯にこれからの教育を考え、ともに協力してきてくれたという事である。あらためて敬意を表したい。また、そこには熱意をもって教育の情報化を進めてきた学校教育関係者と現場の先生方、そして大学をはじめとする有識者の先生方の指導・助言があり、さらには省庁との強い絆と信頼関係があってはじめて、なしえてきた事だと思っている。

 我々文教事業に携わる団体及び企業にとって、我が国の未来を担う子供たちの育成のためのお手伝いが出来ることは、大きなやりがいであるとともに、大きな誇りでもある。業界全体として今まで以上に整備計画目標達成に取り組んでいくことをお約束して、結びとしたい。



「eスクール ステップアップ・キャンプ」ホームページ
http://eschool.javea.or.jp/files/esch2016_report.pdf
ながたに ゆきひさ
2011年日本視聴覚教具連合会理事。日本教育情報化振興会参与他も勤める。2015年4月より日本視聴覚教具連合会ICT活用委員会委員長として「eスクール ステップアップ・キャンプ」事業等を推進。